グリセミック指数(GI)

 グリセミック指数(GI)は比較的新しい概念であり、ヨーロッパの栄養学者や医師には最近認められていますが、日本やアメリカの医師はさほど注目していません。痩せたい人や糖尿病の人にとって食べ物のカロリーはとても気になるものです。少しでも低カロリーの食べ物を選びたいのがダイエッターの気持ち。しかしカロリーが同じ炭水化物でも、モノによっては太りやすい食べ物とそうでないものがあるのですから、聞き捨てならないはずです。しかも糖尿病の人にとってはもっと切実なインスリンとの関係が大変重要です。
 私たちが主食としているご飯やパンなどの炭水化物は種類によって、食べた後血糖値が上昇する時間には差があります。この血糖値の上がり方が早いか遅いかを指数にしたのがGIなのです。GIはグルコース(ブドウ糖)を100として基準にしています。
 グリセミック指数を測定するには被験者グループに正確な量の炭水化物食を食べてもらい、時間ごとに採血をして、グルコース値を記録する方法を取ります。
1. 50グラムの炭水化物を含む食物を被験者に食べてもらいます。例えばスパゲティーなら茹  でた200グラムのスパゲティーの炭水化物が50グラムに相当します(食品成分表を参考にして量を決めます)。50グラムの炭水化物は大さじ3杯の純粋グルコース粉に相当します。
2. その後、2時間に渡って(初めの1時間は15分ごとに、2時間目は30分ごとに)採血をします。採取した標本の血糖値を測定して記録します。
3. 血糖値をグラフに記入して、記入点を結んだ曲線下部の面積をコンピュータで計算します。
4. スパゲティーなど検査品目に対する被験者の反応と、50グラムの純粋グルコース粉(対照食品)に対する血糖値反応とを比較します。
5. 対照食品の反応検査は、日をおいて2〜3回行いその平均値をとります。これは血糖値反応の日毎変化や日動変化の影響を少なくするために行います。
6. 8〜10人の平均GIを、その食品のGIとします。
 GIの数値はグルコースを100として決められます。グルコース以外の炭水化物は100以下になり(例外は二糖類のマルトースでこれだけは105になります)、GIが55以下のものは低グリセミック指数食品、70以上のものは高グリセミック指数食品、55〜70の間はその中間だと考えられています。ただし一部の栄養学文献では白パンを100とするGIが使われているので注意が必要です。白パンが100ならグルコースは130になります。ポテトや米を100以上とするGI表はそのたぐいであると思われます。
 一般的に、高グリセミック指数食品は強いインスリン反応を誘発して、からだをインスリンホルモンの及ぼす害作用にさらす頻度を高め、低グリセミック指数食品にはその心配はありません。低グリセミック指数食品はじんわりと着実にエネルギーを供給して空腹感をなだめ貯蔵カロリーの円滑な利用を促進します。高グリセミック指数食品は爆発的にエネルギーを供給しますがすぐに枯渇して空腹になります。しかし、だからといって、一律に高グリセミック指数食品が悪く、低グリセミック指数食品がいいというわけではありません。ただ、炭水化物を主食とする食生活の健康リスクにおいては、摂取食物における高グリセミック指数食品の比率が重要な鍵になるということなのです。
 血糖値が上がると糖を細胞内に取り込んでエネルギーに変えなければならないため膵臓からインスリンが分泌されます。インスリンは血糖値によって分泌量が決まるので血糖値が高いと爆発的に分泌されエネルギーを供給します。余ったブドウ糖はグリコーゲンとして肝臓に溜め込まれますが、あふれた分は体脂肪として備蓄されます。インスリンの分泌量が多いほど備蓄力は強くなります。ところがインスリンは爆発的に分泌されるとその反動で一気に減少してしまいます。この急激なアップダウンの繰り返しがインスリンの分泌そのものを乱し、いつしか枯渇させて糖尿病へと誘うのです。ということは血糖値をゆっくり上げればインスリンも少しずつ分泌され、脂肪も溜め込まれずにすみます。消化吸収に時間がかかれば肥満にも糖尿病にもなりにくいというわけです。
 炭水化物の種類によって血糖値の上昇率に差が生じる仕組みにはいくつかの因子が関与しています。ひとつは炭水化物の化学的性質です。からだは好みの燃料であるグルコース(ブドウ糖)の処理を得意としていますが。果物や蜂蜜の単糖類である果糖の処理は苦手です。果糖はGIが極めて低く23しかありません。砂糖(蔗糖)はひとつのグルコース分子とひとつの果糖分子とが結合している二糖類であるため、白砂糖のGIは65で、果糖の23とグルコースの100のちょうど中間ぐらいに位置しています。二大植物性澱粉のアミロースとアミロペクチンも消化の速度が異なっています。分枝が多く、表面積が広いアミロペクチンのほうが消化酵素の活動範囲が広くアミローシスよりもGIが高くなります。
 食べ物によっては、炭水化物の物理的な性質のほうが重要な意味を持ってきます。ほとんどのパンはGIが高いのですが、これは精製加工された小麦粉の粒子の表面が消化酵素にとって恰好の活動の場になることと、酵母の活動でできたパンの気孔がさらに表面積を広げて消化酵素の活動率が高まるためです。それとは対照的にパスタのGIは低くなっています。パスタは調理の仕方でGIが変化します。生煮えのように感じる「アルデンテ」(歯ごたえのある茹で方)は茹で過ぎたパスタより消化酵素が活動しにくくGIも低くなります。
 GIに差を生じる因子は他にもあります。繊維質の有無もそのひとつです。豆や種子などをおおっている繊維質の外皮や植物の細胞壁のセルロースは内部の澱粉に消化酵素を接近させにくくする役割を果たしています。豆類など一部の穀物の繊維は水溶性で消化管の内容物に粘着性を与え、澱粉の消化速度にブレーキをかけています。一方、全粒小麦の繊維は不溶性で、そのまま調理するか荒く砕いて調理すれば物理的に消化を妨げ血糖値の上昇時間を遅らせますが、細かく挽いてから調理するとその効果は失われてしまいます。全粒パンと白パンのGIにさほど差がないのはそこに理由があります。白パンより全粒パンのほうが優れている(ビタミンやミネラルが多く不溶性の繊維が消化管を掃除するなど)が、小麦澱粉の血糖値に与える影響を和らげる効果はほとんど変わりません。
 食物中の脂肪は澱粉の消化を遅らせ、同時に胃を空にする時間を遅らせるので、GIを低下させます。しかし、この場合の脂肪は実は曲者だといっていいでしょう。高血糖やインスリンの過剰分泌という害を避けるために炭水化物の摂取を抑制すべく澱粉に脂肪を加えることは最良の方法とはいえません。それよりいいのは、脂肪の替わりに酢、レモンジュース、酸っぱい果物などの酸を加味することです。胃の中に酸が増えても消化速度を緩め、胃を空にする時間を遅らせる効果があり、そのほうがからだにいいのです。
 代表的な食べ物のグリセミック指数(GI)は以下のとおりです。質素でいかにもダイエット食という印象のあるもの(餅など)のGIが非常に高く、甘いものの多くが低いという事実を意外に思われることでしょう。餅の澱粉はよくつ搗かれているために表面積がきわめて広く、消化酵素が活発になって血糖値を急上昇させますが、砂糖は分子の半分が代謝しにくい果糖だからGIも低くなるのです。

 

GI分布 低GI食品・・・55以下 中間GI食品・・・55〜70 高GI食品・・・70以上
ブドウ糖 100
サクランボ  22
餅  80
麺(インスタント) 46
果糖   23
グレープフルーツ 25
白米 72
そら豆 79
蜂蜜  58
キウィ 52
玄米 55
いんげん豆 27
乳糖   46
オレンジ 44
スパゲティー 43
大豆 18
麦芽糖  105
桃(生) 42
挽き割りそば粉 54
かぼちゃ 75
白砂糖  65
パイナップル 66
白パン 70
サツマイモ 54
りんご  38
レーズン 6
全粒小麦パン 69
ポテト 62
バナナ  55
すいか 7
クロワッサン 67
グリーンピース 97