食事とコレステロール

コレステロール
 コレステロールは複雑な経路をたどって体内を巡っていますが、その動きをコントロールしているのは肝臓です。肝臓は血中からコレステロールを取り除いて、胆汁の中に分泌します。その胆汁が小腸の中に入って、脂肪の消化を助けるわけです。胆汁の中のコレステロールは腸から再吸収されて、また血流に乗って全身を巡ります。血液に入ったコレステロールは、リポタンパクというタンパク質に包まれた格好で全身を巡ります(リポとは脂肪のこと)。
 そうして循環しているコレステロールのタイプのひとつにLDL(低濃度リポタンパク)があり、動脈壁を傷つけるため「悪玉コレステロール」と呼ばれています。一方、HDL(高濃度リポタンパク)というものもあり、これらのいくつかは動脈を損傷から守る働きをするため「善玉コレステロール」と呼ばれています。
 したがって、摂取した総コレステロール量を知ること以外に、その内訳、つまりLDLとHDLの比率も知っておく必要があります。
 血中総コレステロール量は180(血清1デシリットル当たりのミリグラム数)以下に抑えてください。でもHDLのほうがLDLより多い場合は、180を超えてもかまいません。
 総コレステロール量が非常に少なければ(140以下ぐらいなら)、善玉コレステロールが少なくても動脈の損傷は起こらないためHDLとLDLの比率も気にする必要はないようです。 少数ですが、何を食べても体内でコレステロールをたくさん作ってしまうという、遺伝的な素因をもった人がいます。そういう人はコレステロールを正常値に下げるための薬物療法が必要になるかもしれません。しかし、大部分の人にとっては、血中の脂肪やコレステロール値を左右するのはズバリ食事です。高脂肪食を食べたばかりの人の血中標本を顕微鏡で見ると、血球と混ざりあった脂肪球が観察でき、低脂肪食の食事を1週間続けた後では、ほとんどの人の血清コレステロール値がはっきりとさがったのがわかるはずです。
 これも少数ですが、血中から脂肪とコレステロールをきれいに掃除してしまう優秀な肝臓をもった、幸運な素因の人がいます。そういう人なら、肉、卵、バター、チーズなどを生涯好きなだけ食べても、血清コレステロール値は低く、動脈の病気にもなりません。それ以外のほとんどの人にはできない芸当ですから、念のため。ほとんどの人が肉などを好きなだけ食べ続けたら、どうなるか。若いうちはあまり症状として現れませんが、年をとるにつれて、高レベルのコレステロールがもたらす動脈硬化の結末は、おのずと明らかになつてくるのです。そのような問題を起こす食生活を変える時期が早ければ早いほど、損傷の回復も早く始まり、病気になるリスクも少なくなるというわけです。ベトナム戦争や湾岸戦争で戦死した20歳代の兵士の解剖所見でも多数の動脈硬化が認められたそうです。乳児のうちは母乳で育つため、脂肪の処理能力は盛んですが、成長とともに低下します。3歳を過ぎたら、もう余分な脂肪はとらないようにしなければいけません。

 

食事とコレステロールの関係
 脳梗塞や心筋梗塞の主犯となるコレステロール値を下げるにはどんなものを食べたらいいのでしょう。
 コレステロールのコントロールには、「何を食べればよいか」より「何を食べない方がいいか」に関係があります。血清コレステロールの濃度を直接的に左右しているのは、摂取した飽和脂肪(温度が下がると固まり、不透明になる。動物性脂肪がその代表)の量なのです。したがって最も大切な予防法は、食事に占める飽和脂肪の比率をできるだけ小さくすることです。そのためには、肉、卵、バター、牛乳及び乳製品、動物性脂肪や熱帯地方の油(ヤシ油、ココナッツ油)を使った加工食品をできるだけ食べないことです。
 血清コレステロール値に影響するのは食事だけではありません。遺伝、喫煙、カフェイン、運動不足も影響します。それでも、食習慣を変えることは他の要因を変えることよりも簡単で効果的なので、大いに試みる価値があるという訳です。
 植物油にはコレステロールそのものはありませんが、大量の飽和脂肪を取れば、間違いなく動脈の中にコレステロールがたまります。ピーナッツバター、ショートニング、マーガリンなどの脂肪食品が入った容器のラベルに書かれた「コレステロールなし」に騙されないように。その食品自体にはコレステロールがなくても、からだが余計なコレステロールを作る原因として作用します。
 じつのところ、食物中のコレステロールは食物中の脂肪ほど重要ではありません。肝臓は独自にコレステロールを作る能力があるし、コレステロールは食物中の飽和脂肪に多くの影響を受けるからです。コレステロールの多い食物は確かにからだによくありませんが、その理由は、それがすべて動物性食品であり、ほとんど例外なく飽和脂肪の主要摂取源だからです。肉、バター、チーズなどがからだによくない理由の一つは、コレステロールのせいというより脂肪のせいなのです。例外の一つはエビです。エビには大量のコレステロールが含まれていますが、脂肪はほとんどありません。だから、油を使わずに調理したエビは、肉より動脈の健康にいいということになる訳です。卵の黄身には大量のコレステロールと、それにもまさる大量の脂肪が含まれています。肉と乳製品を中心にした典型的な高脂肪食を食べている人にとっては、卵がコレステロールを増やす主犯になってるとは言えませんが、肉も乳製品もほとんど食べないのにコレステロール値が高い人は卵が問題になっている事があります。一回の食事で卵を一個食べただけでも、コレステロールの血中レベルがぐっと上昇します。
 オートブラン(カラスムギのふすま)には腸内のコレステロールを固めて吸収されるのを防ぐ働きがありますが、他にも、有益な食物がたくさんあります。果物や野菜の多くがコレステロールを下げることが分かっています。おそらく水溶性の繊維を含んでいるからでしょう。タマネギとニンニク(特に生の物)もコレステロールを下げますが、その理由はまだ分かっていません。両方とも繊維が少ないものですから、繊維が関係している訳では
無さそうです。
 シイタケには、血管外組織へのコレステロールの取り込みを盛んにする成分(エリタデニン)が含まれていて、結果として血清コレステロール値を下げる事につながります。
 唐辛子類もコレステロール値を下げる働きをしますが、そのメカニズムについてはわかっていません。肝臓のコレステロール産生を抑える働きがあるのかも知れません。ともあれ、その働きをしているのは唐辛子類の辛味の主成分であるカプサイシンです。カプサイシンは強力な局部麻酔剤であり、心臓や血管全般にもいい影響を与えます。辛いものほどカプサイシンがたくさん含まれていると考えてください。
 適度なアルコール摂取は「善玉コレステロール」のあるタイプのものを増やす作用がありますが、動脈硬化の予防になるタイプのコレステロールではなさそうです。
 一番お奨めなのは「オメガ3」と呼ばれる変わった脂肪酸です。オメガ3には血液の凝固傾向を抑える、炎症を抑えるなどいくつかの利点があります。それを多く含む北方の冷たい海で捕れる脂身の魚(サケ、イワシ、ニシン、サバなど)か、亜麻仁油を使った料理を食べることです(ただし亜麻仁油は非常に酸化しやすいので注意が必要)。魚油はいくつかの方法で心臓病の予防薬として働きます。血中総コレステロール量を、特に最も危険なタイプの物を減らす働きがあります。

 

まとめましょう
コレステロールを正常値にまで下げるには、食事に関して次のことを可能な限り実行してみてください。
1. すべての脂肪の摂取量を減らす。
2. 特に飽和脂肪(冷蔵庫の中で固まるような油)を減らす。
3. 果物、野菜、全粒穀物の摂取量を増やす(繊維質をたくさんとる)。
4. タマネギとニンニクをもっと食べる(一部は生で)。
5. 食事に脂身の魚か亜麻仁油を加える。
6. シイタケを食べる
7. 料理に唐辛子を使う。ただし前立腺に問題のある人は症状を悪化させる恐れがあるので注意が必要。
8. コーヒー、紅茶、コーラなどのカフェイン飲料をよく飲む人はそれらを減らし、緑茶にする(緑茶にもカフェインは含まれているがコレステロールを下げる成分を含んでいる)。
9. 動脈を保護するためにビタミンC及びビタミンEの栄養補助食品を利用する。