未病を治す

 現代医学は主に病気のそのときの症状を治す対症療法によって治療するので病態を特定しにくいほとんどの病気には無力に終わってしまうのが現状です。未病(みびょう)とは東洋医学では「未まだならざる病」という意味があり、病気が発症する前のからだの状態をいいます。ほとんどの病気は突然降って湧くようになるものではありません。からだは「未病」の段階を経て卵からかえる雛のように病気になっていきます。長い年月と幾多のプロセスを経てからだを蝕んでいくのです。病気からからだを守っているのは「自発的治癒 (自然治癒力)」です。この自発的治癒が正常に機能することで病気からからだを守ってくれます。しかし、日常の生活や仕事での疲れ・精神的ストレスは自発的治癒を低下させるのに余りある影響を与え、「未病」をつくります。「未病を治す」ということは現代の言葉に言い換えれば予防医学ということになります。
 厚生労働省では「健康日本21」という国民健康運動を展開しています。具体的な目標を設定し2010年までにガン、循環器疾患、糖尿病などの生活習慣病を減らそうというものです。この計画は1977年に米国のマクガバン上院議員が提出したレポートが下敷きになっています。「ガン、心臓病、糖尿病などは生活習慣によるところが大きい」とした5000頁にわたる詳細なレポートでその報告を受けて米国は国をあげて予防医学に取り組みました。その結果、心疾患などの生活習慣病が目に見えて減少したのです。また、分子栄養学の発展とあいまって健康補助食品やビタミン、ミネラルなどのサプリメントが普及し、さまざまな代替医療も盛んになりました。近年、日本でも健康に対する関心が高くなっています。しかし、いろいろな健康法が一種のファッションのように流行ったり廃れたりするなど確かな知識がしっかり根付いているかといえば怪しいものです。中には誇大広告や間違った情報が信じられ不確かな知識のもとでの事故も起こっています。
 古代中国の医学書「黄帝内経」に「聖人は未まだならざる病を治す」とあります。大事は小事の中に始まりがあるのは昔も今も同じのようです。東洋医学に携わるものは予防医療の一翼を担っています。ところで、病気について考えるとき、多くの人が始めに思うことが疲れやストレスではないでしょうか。疲れやストレスからなぜ病気になるのか、そのメカニズムはわからなくても本能的に感じてしまうものです。

 

自発的治癒を賦活させる上で語らずにはいられない自律神経の話

顆粒球とリンパ球
 自律神経には交感神経と副交感神経があり、両者は拮抗する機能を持っています。
私たちのからだを守る免疫担当細胞といわれる白血球の中の顆粒球が交感神経に、リンパ球は副交感神経に支配されています。顆粒球は化膿性炎症を起こして細菌・異物を取り込み殺菌、消化するという貪食作用で処理して化膿性の炎症を治すという防御機能を担っています。リンパ球は免疫系のひとつとして微小抗原処理でからだを守っています。そして、いかに効率よくその防御体制をひくかということで顆粒球とリンパ球のバランスが決まります(正常時は白血球中の顆粒球が約60%、リンパ球が約35%、その他が約5%)。このバランスが一方に偏ると過剰反応を起こします。これはガンの発生とも関係しています。例えば、早期ガン患者には顆粒球の増加が見られます。つまり、ガン発生の舞台裏には交感神経の緊張過多があることを示しています。働きすぎや、過度に積極的な生き方をしている人、この他、痛み止めの薬を長期服用も問題です。腰痛、肩こり、リウマチなどは交感神経の過緊張によって引き起こされ、血行障害と顆粒球の増加が背景にあります。

 

天気と自律神経
 新潟大学大学院教授の安保徹先生のもとに寄せられた外科医からの「天気の良いゴルフ日和のときに虫垂炎患者が重症化する。それを免疫学的に解いてほしい」という依頼から始まった天気と自律神経の研究の結果、高気圧や低気圧が自律神経を揺さぶるということがわかりました。高気圧、つまり晴れの日は空気が重たい状態なので上昇気流が発生しません。つまり酸素濃度高い空気を吸うことになるので交感神経が優位になり元気溌剌となります。このとき白血球中の顆粒球が増加します。顆粒球は化膿性炎症を起こすので虫垂炎の場合、化膿性または壊死性虫垂炎まで起こします。一方、低気圧の時は空気が軽くなり上昇気流が発生し雲ができ、雨が降りますが空気中の酸素濃度は低くなり副交感神経が優位になり、からだはリラックスします。この時は顆粒球の割合が減少し、リンパ球が相対的に増加します。
 顆粒球とリンパ球のバランスがどちらかに行き過ぎると天気と自己の生体の揺さぶりによって病気を発症します。晴れた日は交感神経緊張状態になるので顆粒球過剰の病気を発症しやすくなり、低気圧の場合は副交感神経過剰のゆったりした体調になるのでアレルギーなど、リンパ球過剰の病気を発症しやすくなります。
 安保先生曰く、「顆粒球が過剰になっている人の性格は、概してがんばり屋さんで気迫がある人が多く、リンパ球優位の人はゆったりしてのどかな人が多いようです。顆粒球人間は組織障害の病気、化膿性炎症の病気がでやすく、リンパ球人間はアレルギーの病気がでやすい。だんだん日本でアレルギー症状が増えているのは豊な社会になった証拠です。」

 

 オステオパシー治療やハリ治療を行うまえと、行ったあとでの脳波測定や血液検査で、自律神経の働きを顕著に整えることが客観的に実証されています。