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さて、この小説。
読めばわかりますがエロではありません。どころか
ホモですらない。
女っ気はありませんが、色気もありません(笑)
ソコを、先に強調させていただきます。

更に、もともとこの小説は他の硬派同人誌用に
書いた物です。再録です。
それでもよろしければ。以下をお読み下さい。

 「例えば仰向いて、手を胸のところで組んで寝てたり

                   第1回  野崎

 「お前等に、滅びへの選択肢を与えよう」
 声がそう続けた瞬間、俺達は相対した物があまりにも
大きかったことを始めて思い知った。人間には出せそうに
もない、あまりにも重々しく、荘厳ですらある声と、
街全体に恐怖を知らしめるかのような内容。
 「何も考えるな!」とメガネが叫んだ。パニックを表に
出すのはあいつの悪い癖だ。別に俺だって、焦ってない訳
じゃない。だた、パニックを瞬間にとらえられないだけで。
 ギョロ目とメガネは何故か両手を広げ、目を閉じ、何か
を押さえるような仕草をする。
 それを見ながら、俺は不意に、自分が酷く疲れている
ことを思い出した。だってそうだろう?背中には馬鹿げて
重たい機械。エレベーターも動いてない高層ホテルの
最上階へは、階段を自力で上がらなきゃならなかった。
それだって小物のゴースト共を吸い込みながら、なんだし。
 こういうときは、ついつい馬鹿げたことを考えるのが
人間って物だろう。そう、例えばこう、ふわふわした、
攻撃力なんてまるでなさそうな、真っ白い彼なんて……。
 「願いは、かなえられた」
 俺が、そのイメージを脳裡に思い浮かべるのと同時に、
例の声が告げた。
 俺達の視線が錯綜する。ギョロ目とメガネが首を振りあう。
うわ、なんかヤバイかも……。たらりと冷や汗が背中を
伝わるのがわかった。
 「何を考えた?」
 絶望的な顔でメガネが俺に聞いた。
 ギョロ目は首を振っている。
 観念して、小声で告げた。
 「マ、マシュマロマン……」
 ゴースト・バスターズ!
 
 一拍遅れて。テーマ音楽が、大音量で、鳴った。


 ばちり、と音がしそうな勢いで俺は目を見開いた。
 ものすごく息が荒くなっていることに気が付いて、
意識的に深呼吸に切り替える。
 恐る恐る目を動かして、景色を確かめる。
 まだ真っ暗な室内に見慣れた白い壁紙、掛け布団の
カバーの模様は安っぽいストライプだ。冷や汗をかいた
せいでじっとりとしたパジャマ代わりのスェットの感触
と、頭の形に沈んだ枕。
 最後に、背中に何も背負ってないことを確認してゆっ
くりと布団から起きあがる。大きい溜息が漏れた。
 「夢、か……」
 良かった、と心底思う。まだ夢の中での恐怖心が残って
いるのか、手が微かに震えている。    
 「マ、マシュマロなんて今日は食えない……」
 一人暮らしを始めて癖になった独り言で呟くと、やっと
少し落ち着いた。とどめにもう一度深呼吸をして恐怖心
を追い払う。
 ほっとすると同時に、理不尽だ、と思い始める。
 そう。大体何で、今更ゴーストバスターズなのか。別に
俺がここ最近あの映画を見たわけじゃなし、何かの選択
を迫られている訳でもない。
 と、いうより。
 何故に俺が、あのハゲにならんといかんのだ。
 「俺的にはギョロ目でしょう……」
 髪を掻き上げて、立ち上がる。起きたばかりなのに、
眠気なんぞ、最初から欠片も残ってなかった。


 顔を洗うとかなりさっぱりとする。タオルで顔を拭き
ながら髭をチェック。無精髭を、というよりもぽつぽつ
生えるのって、女の子になんか嫌がられるんだよな。
 鏡の中の顔はちゃんと俺で、密かにまだびびっていた
のを、ようやく全部払拭する。
 試しに鏡に向かって、にっと笑ってみる。鏡の中の、
少し頼りないような顔をしたひょろい男も俺に向かって
にやりと笑い返してきた。
 ん、おっけー。顔色はちょっと悪いけど、ちゃんと
大学生の顔をした、二十歳の俺がここにいる。
 スェットを脱いで、少し迷ったあげくトランクスまで
脱ぐ。変に汗をかいたせいで気持ちが悪い。で、もうここ
まで脱いだなら、とシャワーを浴びることにした。
 ユニット式ではなく、トイレとバスが別になっている
作りのアパートを探したせいで、俺の部屋は少しだけ狭い。
だけど、風呂とトイレが一緒ってのはどうもなぁ……。
 さっきまでの恐怖心をすっかり忘れ、鼻歌を歌いながら
素っ裸で風呂のドアを開く。
 途端、俺の思考は、停止した。
 「うだがわ、たけしさんですね?」
 あまりのことに、何も考えられない。取りあえず頷く
のが精一杯だって。こういう場合。
 「あなたの番号はキューマルイチ。畜舎番号は五番に
なりますね」
 目の前で、ベストを身に着けたウサギが手に持った
ボードに何かを書き込みながらちらりと目線だけを上げて
確認してくる。でも、身長が俺の腰ぐらいまでしかない
せいで首ごと上を向く羽目になってるけどね。
 そこまで冷静に考えて、激烈な違和感を感じる。
 って、いや、………え?
 ここは何処だ?宇田川君の家の風呂。正確に言うとその
入り口。え、じゃ、俺って誰よ?……宇田川君、いや、
だからキミ。剛君、でしょう?
 すごい勢いでぐるぐると俺の中で誰かが会話を進めて
いく。オイオイ、ちょっと待ってくれ。じゃ、俺の目の
前にいるウサギは何なのよ。確認に俺が答えないと見て
取って、嫌味ったらしく自分の懐中時計なんて確認する
このちび、いやデカウサギはっっっ。
 顔に出ないまま静かにパニックしてる俺を鼻で笑い、
にたりと笑ってウサギが告げる。
 「悪夢の始まりはいつだってウサギですよ、剛さん」
 と。
 俺の意識は、情けないことにそこで暗転した。
 ウサギは、宇田川に畜舎の番号となにかの番号を告げた後、にやりと笑う。
 宇田川の意識は、そこで途切れた。

 

へへ、書いちゃったよ。以下、待て次号。

 

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