少食・知性・味わい



大食より少食を
 研究によれば、政府機関の定めた標準必要量に相当する餌を食べた動物や、好きな
だけ食べた動物にくらべて、標準より少なめのカロリーしか与えない動物のほうが長生
きして、病気にも罹りにくいそうです。恐らく、標準必要量は栄養が高すぎ、慢性の栄養
過多状態を引き起こして、それがからだに負担をかけるのでしょう。実際、一部の研究
者は最近になって、健康と長寿を保つためには「少食」がいいといいはじめています。も
ちろん、少食にせよと言うのは簡単だが、それを実行するのは難しいものです。食べる
ということは単に身体に栄養を供給すること以上の、さまざまな機能に役立っています。
それはシンボリックな行為であり、社会的な機能であり、快楽の源泉です。 私たちのか
らだは、長い歴史をつうじて飢餓の中で進化してきました。食べ物を得ることは容易では
なかったし、年中手に入るわけでもありませんでした。その中で環境に適応して生き残っ
てきた我々の先祖は、食べ物を探す能力、それを最大限に活用する能力を身につけた
人達です。現代は量においても種類においても空前の食べ物がいつでも手に入る時代
にあって、彼らから受け継いだ遺産は不都合に働きかねません。肥満に悩む人が増え
るのも、ダイエットにとりつかれる人が増えるのも、「少食論」に人気がないのも、無理か
らぬ時代でしょう。にもかかわらず、さまざまな研究結果からみて明白なのは、大食より
は少食がいいということ、少食は本気で試みる価値があるということです。食事の回数を
増やして、少しずつ食べるのもいいでしょうし、ときどき断食をするのもいいかも知れま
せん。もう一つのやり方は、好きな食べ物のカロリーを減らす方法を身につけることで
す。


知性ではなく感性で食べよう
 味覚と嗅覚は何がからだにいいかを教えてくれる優秀なガイドです。それを信用しまし
ょう。感覚を磨き、感覚に注意を払って、からだの智恵に耳を傾けましょう。嫌いなのに
「からだにいいから」と考えて食べたとしても、身体の智恵に耳を傾けたことにはなりませ
ん。嫌いなものを、誰かに「からだにいい」といわれて無理に食べるのは、なおさらです。
何よりも自分の感覚に訴えるもの、からだが喜ぶものを食べるべきです。食べることは
人生の偉大な快楽のひとつであり、たとえ現在好んでいる食べ物をやめる気になったと
しても、楽しみを犠牲にするような食生活を始めるなら、健康とは言えないのでは。


味わいつくし、舌鼓を打って食べよう
 消化器系は精神状態を反映する鏡です。だからストレスによって、実に多くの消化器
疾患が生じています。怒っているとき、不安なとき、気が散っているときには、いくらいい
ものを食べても、からだが、十分に消化してくれません。いつもラジオでニュースを聞き
ながら、新聞やテレビを見ながら、あるいは仕事の話をしながら食べていては、栄養を
頂いていることにはなりません。何を食べるかよりも、食べるときに何をしているかの方
が重要かもしれません。消化活動は、食べ物を味わいつくし、食べることの快楽をこころ
ゆくまで味わったときに、いちばん効率よく働くものなのです。



バランスのとれた食事を
  私たちは耳にタコができるほど「バランスのとれた食事をしろ」といわれてきました。
バランスのとれた食事とは何か? 要するに炭水化物、脂肪、タンパク質 という三大栄
養素が正しく配合された食事のことで、食べ物を賢く選ぶには、それぞれの栄養素につ
いて身体がそれらをどう使うのかを知っておきましょう

炭水化物
  炭水化物は炭素と水素と酸素でできた比較的単純な成分で、もっとも基本的な
栄養素です。いちばん単純なものはブドウ糖、果糖、蔗糖(砂糖)といった糖分で、
澱粉は単純な糖分々子が鎖状につながった複雑な炭水化物です。
  炭水化物を食べると、からだはそれを代謝、つまり「燃焼」させて貯えられてい
たエネルギーを放出し、ふたたび水と二酸化炭素に変わります。また、成分を分解
するのにさほどの工程を必要としない効率のいいクリーンな燃料です。
  糖分はもっとも基本的な栄養素であり、細胞の多くは糖分によって働くことを好
み、脳神経細胞のように糖分がなければ働かないという特殊なものもあります。し
かし、糖分にはからだに入るとすぐエネルギーになってしまい、その配分や蓄積の
コントロールがむずかしいという問題点があります。澱粉の場合は、からだがその
カロリーをうまく蓄積して必要なときに糖分に変えることができるのです。

肥満は澱粉のせいか?
  多くの人は、澱粉は栄養が少なく肥満のもとになる食べ物だと考えている様で
すが、実は、おいしく、消化吸収しやすく、効率のいい、クリーンなエネルギー源
で、澱粉が肥満のもとになるのは、
1.脂肪と一緒に食べる
2.運動をしない
という二つの条件のいずれかがついたときだけです。
  ほとんどの人の味覚は「澱粉と脂肪のコンビネーション」を好むように慣らされ
ています。パンにマーガリンをぬる、じやがいもにバターをのせる、などではカロリ
ーも高く食べ過ぎれば当然太ってしまいます。あまり脂肪分を使わずに澱粉を食
べ、運動をしてカロリーを燃焼しましょう。
  食事のメインは炭水化物にすべきで、その割合は全消費カロリーの40〜50%
 が望ましいようです。

脂質
  脂肪も炭水化物と同じく炭素・水素・酸素だけでできていて、やはりクリーンなエ
ネルギー源です。しかし、脂肪の分子(脂肪酸)は三つの元素が集まって出来ると
きに炭水化物よりも多くのエネルギーを必要とし、燃焼するときにも 多くのエネル
ギーを放出します。脂肪はもっとも高カロリーの栄養素で、1g あたり 9 kca lとい
う、タンパク質や炭水化物の二倍に相当するエネルギー源です。

高脂肪は寿命を縮める
  私たちが「栄養のある食べ物」というとき、たいがいは脂肪がたっぷり使われて
いるものをいっていることが多いでしょう。その脂肪への欲求と摂取過剰が命取り
になっています。高脂肪食は寿命を縮め、心臓血管疾患、ガンなどの深刻な病気
の原因になりやすく、糖尿病の主な原因でもあります。健康を左右する重要な要素
には、脂肪の摂取量だけではなく、脂肪の種類、および調理法があります。
  よく「飽和脂肪をあまりとらず不飽和脂肪をとった方がいい」と簡単に言う人が
いるが、飽和脂肪と不飽和脂肪をどう見分けるか?一番簡単な方法は冷蔵庫の
中をのぞくとわかります。飽和脂肪は温度が下がると固まり不透明になります。動
物脂肪がその代表です。不飽和脂肪は冷蔵庫の中でも透明でさらさらしていま
す。サフラワー油(紅花油)がその代表です。
  飽和脂肪が多い食生活を続ければ動脈硬化になりやすくなります。では不飽
和油は完璧か? 不飽和油には空気にさらすとすぐに酸化するという危険があり
ます。酸化した分子はDNAや細胞の構成物を損傷する恐れがあり、ガンになるリ
スクを高めたり 老化と組織の変性を早め、炎症性疾患や免疫疾患を悪化させる
恐れがあります
  
摂取量を減らす
  飽和脂肪も不飽和脂肪も有害だとしたら、どうしたらいいか。まず最初に打つ
手は、脂肪の種類を問わず総摂取量を減らすことです。
  全カロリーのうち脂肪のカロリーを30%以下にしましょう。
どんな油を選ぶか
  危険な油のなかにもう一つ付け加えなければいけないものがあります。
  人工的に水素添加して飽和化した脂肪で、心臓や血管にもっとも悪い影響をあ
たえます。マーガリンがその代表で望ましくない化学組成に変えられているため少
量のバターを使うほうがましだといわれています。
  では、どんな油を選ぶべきか。
  完全な飽和から完全な不飽和までの連続したスペクトルの中央に位置し、かつ
てはからだに害も益もないと考えられていた単不飽和脂肪が、もっとも安全な脂肪
のようです。適量をとっている限り、心臓血管疾患のリスクを高めることも、急速に
酸化して発ガン成分に変化することもありません。
  単不飽和脂肪がたくさん含まれているものはオリーブ油、カノラ油(菜種油)
で、できればラベルに「エクストラ バージン」 とか 「一番搾り」 と書いてあるものが
いいようです。
  油は少量ずつ購入し、蓋を開けたら冷蔵庫にしまっておき、一度熱した油は惜
しまず捨て、二度、三度と使わないように。また、煙が出るまで加熱しないように。
油から出る煙には強い発ガン性があるようです。

魚油の疑惑
  魚油が心筋梗塞の予防にいいという話はよく耳にします。北方の海でとれた 
油分の多い魚の常食は、飽和脂肪食に伴うリスクを補う効果があるらしく、サケ、
イワシ、サバ、ニシンなどの脂肪には、「オメガ3」と呼ばれる変わった脂肪酸が含
まれています。ほとんどの動物性および植物性脂肪にはごく微量しか含まれてい
ないもので、血液凝固傾向を抑える、炎症を抑えるなどの利点があるようです。し
かし、近年の海洋汚染や養殖魚の薬物汚染のことを考えると魚が一番とは、言い
切れない面もあるかも知れません。

油についての簡単なまとめ
 サフラワー油(紅花油)・・・不飽和が強すぎる(酸化しやすい)ので使わない方がよ
い。
 カノラ油(菜種油)・・・単不飽和で飽和性が少ない。無臭で万能。
 オリーブ油・・・単不飽和で飽和性が少ない。特有の香りがある。
 マーガリン・・・人工的に水素添加した油で化学処理の産物。使わないほうがよ
い。
 獣肉の脂肪・・・飽和が強すぎる。コレステロールが含まれる。極力、少量に。
 乳脂肪・・・動物性脂肪の中で最も飽和性が強くコレステロールも多い(牛脂肪の
2倍以上)。乳製品は極力、少量にしたほうが。
タンパク質
タンパク質信仰の誤解
  私たちが食事のことを考えるときにタンパク質をとくに重要視するのはなぜでし
ょうか。ほとんどの人はタンパク質が足りないのではないかという心配はしても、と
りすぎについては考えていないでしょう。「肉は豊かさの象徴、欧米人体型への憧
れ・・・・」戦後の経済成長時に先進国入りするため、食べるものまで欧米化してし
まった日本人。最近、日本食のすばらしさを認識して、欧米諸国が積極的に日本
食を取り入れているにもかかわらず。たしかに成長期の子供、重い病気やけがの
回復期にある人、授乳中の母親なら十分なタンパク質をとる必要があります。しか
し、それ以外の健康な成人のタンパク質の必要量は、一日わずか60g〜120gで
す。ベーコンと卵とミルクとコーンフレークの朝食は、それだけですでに一日分のタ
ンパク質をオーバーしていることになります。

高タンパク食は体を疲れさせる
  成長と組織の修復維持のためにからだが必要とする量以上のタンパク質を食
べたらどういうことになるか。余ったタンパク質は炭水化物や脂肪とともに燃料とし
て燃やされますが、それはクリーンなエネルギーではありません。タンパク質の分
子構造は複雑だから解体してエネルギーを取り出すのに、消化器系は余計な作業
をしいられます。また、分子構造に窒素が含まれるため燃焼すると肝臓で尿素に
変えられ、毒性の強い尿素をこんどは腎臓が排出しなければなりません。そのた
めには大量の水分を使って血中から尿素を洗い流す必要がある。高タンパク食の
代謝は消化器系全体さらに肝臓と腎臓に余計な負担をあたえ、疲労感や精力減
退感の原因になります。

高タンパク・無炭水化物ダイエットの危険性
  「高タンパク・無炭水化物」よる急激な体重の減少は、身体の水分が尿管を通
じて失われる排尿過多によるもので、減ったのはほとんど水分で、腎臓が必死に
尿素を排出しようとする働きによるものです。ふつうの食事に戻ればほぼ確実に体
重がもとにもどり、それはまたからだに恐ろしくストレスをかける方法でもありま
す。高タンパク摂取による排尿過多には、カルシウムを含むミネラル類を身体から
排出してしまうという作用があり、カルシウムが失われると骨粗鬆症の発病を招く
恐れがあります。



食品添加物
 食品を買うときには添加物を気にする必要があります。幸いなことに、この国では消費
者グループの圧力により法的規制がなされ、食品会社は商品に成分を表示することが
義務づけられています。食品のラベルは必ず読む習慣をつけてください。

着色料
 最も危険ではありますが、避けるのも簡単な添加物は着色剤です。反射光によ
って発色するような化学物質は非常に活発な分子で、その多くはDNAと反応して
DNAを損傷する恐れがあります。DNAを損傷するものは何であれ、免疫系を損
傷し、老化を早め、ガンになりやすくするものです。くれぐれも人工着色の食品は
食べないように。ラベルに「赤色三号」(緑・青・黄色などの色の名前に○号という数
字がついたもの)などの文字がないかどうか、よく確かめてください。何の説明もな
く「着色」とだけ書かれているものも避けてください。着色料は食品会社の都合で添
加されているわけで、消費者の健康のためではありません。
 植物から採れる天然の色素を使った食品もあります。これについては異議はあ
りません。ベニノキという熱帯の樹木になる赤い実からつくる、アナトーという色素
がよく使われています。ほかにもカラメル、ウコン、カロチン、カカオなどがありま
す。

保存料
 着色料の他に気をつけなければならない添加物は保存料です。しかし、商品の
流通事情など場合によっては、保存料を認めざるを得ないこともあります。天然で
あれ合成であれ、保存料には酸化を防止して脂肪の腐敗を遅らせ、その食品を餌
にしている細菌類の代謝を阻害するという働きがあります。だれでもできることなら
保存料なしの食品を食べたいはずですが、腐ったものと保存料入りの物とどちらを
選ぶかといわれたら、ためらいなく後者を選ぶでしょう。では、よく使われている保
存料について説明しましょう。
 クエン酸、アスコルビン酸(ビタミンC)、カテキン、ビタミンE、レシチンなどは多く
の食品に添加されている安全な酸化防止剤です。ところが、安息香酸、ソルビン
酸、BHA、BHTという合成保存料は、他の成分と複合的に作用して、細胞の発ガ
ン性を促進する恐れがあるため安全とはいえません。
 ハムやウインナーの発色剤として使われている亜硝酸塩は、それ自体は発ガン
物質ではありませんが、消化管の中でタンパク質の分解産物と反応してニトロソア
ミンという、きわめて発ガン性の強い物質に変わりやすいという性質があります。
その反応はビタミンCでブロックできるので、亜硝酸塩を含んだ食品を食べるとき
はビタミンCを一緒にとった方がいいでしょう。何れにせよハムやソーセージなど亜
硝酸塩が添加してある食品は食べないに越したことはありません。その手のもの
は飽和脂肪が多い動物性タンパクであり、塩もたくさん使われています。

人工甘味料
 保存料にもまして心配なのは人工甘味料です。73年に発癌性を疑われて一時禁
止されましたがすぐに再認可されたサッカリンには発ガン性がありますから避けな
ければなりません。他にも、アステルパームは一部の妊婦には要注意です。
 天然の甘味料で一部の人に問題を起こすものは、ナナカマドなどの実からとった
ソルビトールです。味は確かに甘いのですが、消化管から吸収しにくく、代謝しにく
い物質です。シュガーレスガムやキャンディなどによく使われています。たくさん摂
取すると、たぶん下痢をするでしょう。過敏性大腸症候群や潰瘍性大腸の人はソ
ルビトール入りの食品をとらないようにしたほうが無難です。
 その昔、「なめると頭がよくなる」と流行した化学調味料がありましたが、その主
成分であるグルタミン酸ソーダは、調味料としてたくさんの食品に使われていま
す。これは、余計なナトリウムをたくさん含んでいるということに加えて、鼻詰まり、
一過性の紅潮、発汗、心悸亢進、律動性頭痛などの警告症状的なアレルギー反
応を呈します。料理にはグルタミン酸ソーダを使わないようにし、また、グルタミン
酸ソーダを使った食品を買わないようにしてください。ちなみに脳の栄養になるの
はグルタミン酸ソーダではなくグルタミン酸ですので。念のため。

 長い化学物質の名前が並んでいるラベルを読んで理解するのはめんどうなものです。
一番いいのは、知っている成分名より知らない名前の物の方が多い場合は買わないと
いうルールを作ってしまうことです。
 消費者が食品の毒性に関する関心を高めるにつれて、食品会社はより安全な製品を
作ることでそれに応えるものです。
 「着色料は使っていません」 「添加物なし」といったラベルはますます増えてきました。
いいことですね。でも、ラベルの内容が理解できない場合や、ラベルのない物、信頼でき
そうもない会社の製品の場合は、商品を陳列棚に置いたままにしておくべきでしょう。

 注意したい添加物表示(一例)
 着色剤・・・・・・・赤色○号など、色の名前の後に数字のある物・コチニール
  発色剤・・・・・・・亜硝酸塩・亜硝酸Na・硝酸K・硝酸Na
 保存料・・・・・・・ソルビン酸・ソルビン酸K・パラオキシ安息香酸・パラオキシ安息
香酸Na
 酸化防止剤・・・BHA・BHT
 甘味料・・・・・・・サッカリン・サッカリンNa・アステルパーム
 その他・・・・・・・リン酸塩(Na)・リン酸Na・プロピレングリコール

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