吉四六話

 「吉四六話」は、私が小さい頃読んだお話の中でも、とても印象に残ったお話です。なぜなら、大分に古くから伝わる民話だからです。でもそれだけではありません。
 吉四六さんがなんともいい味を出しているんです。また大分の野津というところの方言がなんともおかしい。時にはいたずらずきで、時にはとんちが効いていて、時にはまぬけで・・・。
 明智小五郎なんて目じゃないほど、いろんな人格を持っています。もしかしたら人間の持っている様々な性格や表情を肩代わりしているのかもしれません。
 ある本によると、「吉四六話」は、200を超える話があるそうです。
 DANパネ団は、この「吉四六話」をすこしずつパネルシアターにして、大分の子どもたちに語り継いでいきたいと思っているのです。

吉四六話とは

 大分地方に今も残るこっけいで愉快で、とっても楽しく親しみやすい民話です。

吉四六さんって

 300年ほど前の人で、豊後国(大分県)大野郡野津ノ市村の広田吉右衛門という人だとか。

県民オペラ

 大分には県民オペラというのがあって、1973年に『吉四六昇天』を初演しました。
 大分出身の今は亡き立川清登さんが主演していました。
 確か全国公演して回ったような記憶があります。

大分の方言

アゲー あんなに
オジー おそろしい
キチー きつい
サジー すばしこい
ダイー だるい
タマガル びっくりする
ナシ なぜ
ヨダキー おっくうな

1.モモの番

(DANパネ団オリジナルの作品『モモの番』です)

 親父さんが家の角に植えたモモの木に、初めて5個だけモモがなりました。
 親父さんは、「よう熟れたら一番ちぎりのモモは仏様にあげち、そりかり家んもんが一つずつ食べるのじゃ。
 それまではだれも手をだしちゃならんぞ。 」と、何度も言っていました。

 ある日のこと、その親父さんが遠くの畑に行く前に、吉四六さんに、「きょうは夕方まで帰られんきい、おまえ気をつけち、よう見ちょれや。」と、言いつけました。
 吉四六さん、こくんとうなずいて、「あーい。」と返事をしましたので、親父さんも安心して畑仕事に出かけました。

 吉四六さんは、親父さんに言われた通り、ももの木をじっと見ていました。
 そこへ村の若い衆がやってきて、「うまそうなモモじゃ。もろうていこう。」といってみんなちぎって持っていってしまいました。

 夕方になって、畑から戻った親父さん、あれほど大切にしていたモモの実がたったのひとつもありません。
 吉四六さんが、目ばかりキョロキョロさせて、じーっとモモの木を見ているので驚きました。
 「こら、吉四六。モモはいったいどげしたんか?」とどなりつけますと、吉四六さんは、「とうちゃんが気をつけて見ちょれち言うたきい、わしゃ1日中、こきすわっち、モモん木ばっかり見ちょった。そしたら村ん若い衆がやっちきち、モモをみんなちぎっち行っちしもうた。わしゃ、初めからしまいまで、ここでしっかりみちょったぞ。えれえじゃろ。」
 それを聞いた親父さん、くやしいやら情けないやら、とうとう泣きだしてしまいましたとさ。

2.馬の銭(ぜに)グソ

 隣のゴンニョムさんのおかみさんが、小川でジャブジャブと洗濯をしていると、そこに吉四六さんが馬のフンの入ったザルを持ってきて、ジャブジャブと洗い始めました。
 変なことをする吉四六さんだ・・・と、おかみさんが洗濯を止めてみていると、何と、ザルの中のフンが流れる度に、銭がチャラチャラと現れるので、おかみさんはびっくり。
 「ひゃぁ、吉四六さん、そりゃ何な?」
 「へっへっへへ、うちん馬は、こん前から銭まじりのクソをし始めちのう。毎日こうやっち銭を洗い出して拾うのじゃが、おかげでもうだいぶんたまりやした。」
 「げーっ、そら吉四六さん、本当かえっ?」
 驚いたおかみさん、洗濯物どころでなく、そのままとんでかえりましたが、このおかみさんが驚くべきおしゃべり。あっという間にみんなに知れ渡り、「吉四六さん方(かた)ん馬は、毎日銭グソをたれるそうな。もう千両ぐらいは、もうけたかもしれんで。」と大評判。

 あっちこっちから毎日馬を買いに、大勢の人がやってきました。
 でも吉四六さんはなかなか売ろうとしません。
 そして相変わらず毎日、人がたくさん見ているときに、小川でジャブジャブと馬のクソから銭を洗い出して見せるので、多くの馬買い達はますますその馬が欲しくてたまりませんでした。
 なかでも欲張りで有名な馬買いは、「吉四六さん、吉四六さん、百両でどうじゃ?」
 「へっ、何を言う。100両くらいは毎日クソを洗えばすぐにたまるわい。」
 「ええ、仕様がねえ。そんなら150両出そう。どうじゃ?」
 「それぐらいで売れるわけねえ。」
 「そんなら200両じゃ。」
 「うんにゃ、売らん。こん馬は一生涯でも銭グソをひりつづける馬じゃ。そんくらいじゃ、比べもんにならんわい。」
 「ん〜、よし300両出そう。どうじゃ?」
 「仕方ねえのォ、そんなに欲しいなら売っちゃるかのお。」
 見た目にはとてもよぼよぼした馬は、結局300両で馬買いに引き取られていきました。

 それから2・3日たったある日、馬買いが真っ赤になって怒鳴り込んできました。
 「こん、吉四六の大うそつきが。あん馬はうちに引いて帰ったきり、たった1文も銭グソをひらんぞ。おれをだましたな。」
 吉四六さんは一向に驚かず、にたりにたり笑いながら、「へえ、そげなはずは、ねえのう。お前、馬には何を食わせた?」
 「な、何を食わせるちゅうてん、馬のカイバはおうかた決まったもんじゃ。草じゃのワラじゃの、麦じゃの豆じゃの。」
 「銭はどうかのォ?」
 「な、なにい?」
 「銭は食わせたかちゅうのじゃ。」
 「馬に銭を食わする者があるか、たいていなことを言え。」
 「そりゃいかん。なんぼ馬でも食(く)わんもんがひられるか。悪いこた言わん、今夜ひとつかみほど銭を食わせち見よ。明日の朝にゃ、必ず食わせたほどは、たれるじゃろ。」
 馬買いはワンワン泣きながら帰っていきました。