本日の悪夢(笑)        '00.06.02



……ふと気が付くと、私は中年女性になっていました。
娘役には「小泉今日子」、同心役に「藤田まこと」の豪華キャスト。
勿論、舞台は江戸時代です。


家は、割としっかりした作りだったので、商人にしては成功した人のお屋敷でした。
私はその家のお内儀、「おかみさん」と呼ばれて、持ち上げられておりました。
幸せでしたとも。
ええ、本当に。

商売を始めたのは、祖父でした。この家に嫁いできてから20年、心を込めて
接してきたせいでしょうか、なさぬ仲とは言え、私は大層可愛がっていただいておりました。
…何一つ、曇りない生活だったのです。
それが、一昨年あたりから祖父が隠居し、私の娘も年頃になり、着物や小間物に凝るように
なってから、少しずつ、かげりが見え始めたのでございます。
まずは主人が、その次に祖父が、私に「着道楽が、過ぎやしないか」といさめるのです。
「お前もいい年だ。そろそろ娘時分のような格好はやめて、店の切り盛り一本に……」、と。
二人の言うことはもっともで、私には頷くことしかできませんでした。
それでも、娘が私よりも着飾って芝居やお稽古に行くのを見ていると、うらやましくて恨めしくて。
人より若く見える分、年相応の、老けた格好をしているのは辛いことでした

それに気付いたのは、やはり祖父が最初でした。
その頃には、娘の着物の手入れと言いながら、こそこそと娘の帯を締めたりして、楽しんでいた私
の姿を、見られたのです。
祖父は哀れみを顔に浮かべ、私にこんこんと説いて聞かせました。
当然、わたしもその場では反省するのです。これはいけないことなのだ、と。
もう、しません、と。
…ですが、着飾りたいという願いは日々やみがたく、見つかり、反省してからも2,3日立つとまた、
鏡の前に、娘の衣装で立つ私がいました。

お前のは、それはもう病なのだなぁ、と祖父が洩らす頃には、もう主人も気が付いていました。
娘はいよいよ着道楽になり、恥ずかしい話ですが不相応な着物小間物に、そろそろ店の資金も
苦しくなりかけていたのです。
私はと言えば、ようやく年相応の格好が似合うようになり、娘のような格好が出来ない分、尚更、
仕立てのいいものを欲しがり……。
ですが、祖父と主人は娘をいさめず私を叱るのです。いい加減にしなさい、と。
…ゆっくりと、私の中で黒い何かが生まれていました。

一度不満が生まれれば、あとはもう、坂を転げ落ちていきました。
祖父に言い返し、主人に手を挙げ、娘だけには関係のないこと、と我慢をしておりましたが、
いよいよある日、ついかっとなり、祖父の首を絞め、殺してしまいました。
祖父はあまりの驚きに、息が詰まったのではなく、心の臓を止めて死んだようで、誰にもその不自然
さは気付かれず、私は何喰わぬ顔をして、葬儀をとり行いました。
隠居を亡くした、と言うことで御上からと町内から頂いた見舞金、その意味に気が付いたのは、
月の明るい晩のことでした。

主人は、祖父を亡くしてからも一向にやむ気配のない私の病に、そろそろ愛想を尽かしかけて
おりました。
私を叱る量は増え、手文庫に現金を置かなくなっていたのです。
衣装を買うお金に困るようになった私は、ある日ふと、見舞金のことを思い出しました。
…鬼が、私の中に住み着きました。

主人の部屋にそろそろと行き……あの人はあんどんを付けて眠る癖があるのです。
寝入った頃にあんどんを消すのが私の役でもありましたので、不自然さはありません。
とんとん、と油を主人の布団にかけました。布団にしみた油を消すように、あんどんの火を、
そこにかけました。


……さて、同心様。
私の戯言をえんえん聞いていただいたのは、罪滅ぼしともう一つ。
見ていただきたいものがあったからなのです。
これをなんとご覧になられます?
ええ、帯の飾り紐ですが……ここ、黒うございましょう?
…あの子の、口からだらりと出た血なんでございます。




ココまで一人称の映画で進んでいた映像は、この先三人称へ。

音も立てずに開いた襖の向こうには、なるほど着道楽なのだ、と思わせる年頃の娘が、
にこりと笑って控えていた。
三つ指たてて挨拶をし、盆に載せられた茶碗を同心へ。
もう一方を女に差し出す寸前、映像は突然暗くなり、青のライトで娘の苦悶の顔が浮かび上がる。
「な〜ぜ〜こ〜ろ〜し〜た〜」
と恨めしそうに詰め寄られた女、金切り声を出してこう叫ぶ。
「やめて!やめてぇぇ!! 
アナタがいなければ私は新しい着物が買えるのよ!アナタの着物も着られるのよ!」
それを聞いた娘、ダラダラと口の端から血を流し、白い喉に鶯色の飾り紐を巻き付けたまま、
女の腕にしがみつく。
「苦しい……かあさま、苦しいわ…」
苦悶の表情に、耐えきれなくなり女が叫び続ける。
「……やめてぇ!近寄らないでぇぇぇ!!」





さてココで、この夢が覚めました。
こういう、映画仕立ての夢を見ます。ちなみに、今回の原因は「暴れん坊将軍」でしょう(笑)。
おかげで、風邪を引きました。



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