NS のオペアンプデータブックを見ていると、Typical Applications の中でツェナーダイオードは
ツェナー電圧 5.6V 付近のものが最も温度係数が小さいので・・・、といった記述が出てきます。
日本メーカーの製品の応用例でそのような記述を見たことがあるかどうかは記憶にありません。以前から
これは確認せねばと考えていたのですが、5.6V は手持ちが少なく確認できませんでした。先日ヤフオク
で 5.6V ツェナーを安価に入手しましたので一品種ですが確認してみました。
尤も、どうしても温度係数の小さいものが必要であれば TL431(2.5V から 36V で使用可能) 等を
使用する手もあるのですが、外付け抵抗無しで (電流制限抵抗は別) 使用できれば便利です。
東芝の 04AZ5.6X で現在は製造中止品とのこと。最大定格は 400mW、電流 5mA でツェナー電圧
5.28V(Min) から 5.91V(Max) というものです。5.6V を基準とすれば -0.32V から +0.31V の
範囲に入っているということです。長い間販売していたのに何故製造中止したのでしょうね。
販売数量が伸びないので撤退というなら分かるのですが、どうせまた同じようなものを製造している
のではないでしょうか。
室温でのツェナー電圧
10本測定してみました。5.00mA の定電流で最小 5.421V、最大 5.475V で 5.441V から 5.475V
の範囲で 9本が適当にばらついています。5.6V に対して 3% 強の誤差です。過去、使用に際して
様々なツェナーダイオードの電圧を簡単に測定してきましたが、公称電圧を上回っていることは少なく、
ほとんど公称電圧より低めです。
この状態でドライヤーの熱風を当ててみました。すると見る見るツェナー電圧が上昇するではないか。
5.6V ツェナーも温度係数は良くない!。しかし待てよ。5.0V のツェナーを 1mA の定電流で測定した
時はマイナスの温度係数だった筈。ということは、5.0V から 5.6V の間でほぼ 0 の温度係数を
有するツェナー電圧のダイオードがあるか、または流す電流を変えてツェナー電圧を変えれば
温度係数がほぼ 0 になるかもしれない。
しかし 1mA ステップで温度特性を測定するのは大変だ。
そこで温度特性を測定する前に、最も公称電圧に近い 5.475V の素子を使用し流す電流を変えて
みました。
電流 1mA 室温電圧 5.243V 温度を上げるとツェナー電圧は低下する。−の温度係数。
電流 2mA 室温電圧 5.367V ドライヤーの熱風をかなり近距離で当ててもツェナー電圧は
ほとんど変化しない。5.367V が 5.368〜5.369V に上昇する程度。温度係数ほぼ 0。
電流 3mA 室温電圧 5.421V 温度を上げるとツェナー電圧は上昇する。+の温度係数。
なんとこういうことだったのか!!。電流 2mA 弱で温度係数がほぼ 0 になるようです。
1.9mA の定電流(ツェナー電圧 5.360V)で試してみました。ツェナー電圧は全く変化しません。
素晴らしい。
<宣伝>
こういう時、精密電圧発生器と定電流回路があると便利です。ワンタッチで電流値を変えられます。
<宣伝>
ここまで分かればということで、最もツェナー電圧の小さい 5.421V の素子で試してみました。
電流 2mA 室温電圧 5.301V 温度を上げるとツェナー電圧は低下する。−の温度係数。
電流 3mA 室温電圧 5.361V 温度を上げるとツェナー電圧は上昇する。+の温度係数。
電流 2.4mA 室温電圧 5.330V ツェナー電圧はほとんど変化しない。
他の電圧のツェナーダイオードはどうか
3.0V ツェナーダイオード
10mA の電流でも温度を上げるとツェナー電圧ははでに低下する。−の温度係数大。
4.2V ツェナーダイオード
10mA の電流でも温度を上げるとツェナー電圧ははでに低下する。−の温度係数大。
5.0V ツェナーダイオード
電流 3mA 室温電圧 4.903V 温度を上げるとツェナー電圧は低下する。−の温度係数。
電流 4mA 室温電圧 4.942V ツェナー電圧はほとんど変化しない。
電流 5mA 室温電圧 4.968V 温度を上げるとツェナー電圧は上昇する。+の温度係数。
袋から任意に1本を取り出して測定したもので、個体によってツェナー電圧は異なります。
6.8V ツェナーダイオード
1mA の低電流でも温度を上げるとツェナー電圧ははでに上昇する。+の温度係数大。
8.0V ツェナーダイオード
1mA の低電流でも温度を上げるとツェナー電圧ははでに上昇する。+の温度係数大。
結論
5.6V 付近のツェナー電圧のダイオードが最も温度係数が小さいというのは正しい。一品種しか
測定しておりませんが他メーカーのものも同じようなものでしょう。
NS のデータブックの記述を裏付けるように、5.6V のツェナーダイオードでも最もツェナー電圧の
小さい 5.421V の素子よりも、最も公称電圧に近い 5.475V の素子の方が若干良いように(データ
には表れない程度)思えます。
何故もっと早く体系的に測定しなかったのだろうと悔やまれます。尤も結果として温度係数が
問題となる個所には 5V〜5.6V のものを使用し、電流も上述に近い程度の値で使用してきましたが・・・。
説明するまでもないと思いますが、同じ型番の素子でも温度係数がほぼ 0 になるツェナー電圧は
異なるということです。ほぼ 0の温度係数が求められる個所に使用するときは、個体ごとに
温度係数がほぼ 0 になるツェナー電圧(電流)を調べねばなりません。
ツェナーダイオードの温度係数を積極的に利用するという考え方もあるでしょうが、当方は
難しいと考えます。膨大なノウハウが蓄積されている(若しくはオペアンプ等設計者の頭の中にある) NS の
ようなメーカーでないと無理でしょう。事ほど作用に温度特性のコントロールは難しい。
温度特性を測定しようと考えていたのですが、そこまでする必要は無かったようです。
温度特性の測定

ドライヤーにての加熱では途中の状況が分かりずらいため測定してみました。
同じ個体で赤カーブは電流 2.0mA、青カーブは 1.8mA。温度係数は小さいが 0ではありません。
当方では基準電圧としての用途には使えませんが、その他の用途では温度係数が極めて小さい素子
として利用可能です。60℃までに限れば、TL431でもこれより温度特性の良い個体は少ない。
なお個体により電圧が異なるのはもちろん、カーブも異なるかも知れません。