FET 入力オペアンプ LF357 の高域特性に限界を感じ自作してみました。
LF357 は比較的容易に入手可能な FET 入力タイプのオペアンプとしては、唯一高域特性の良好
(スルーレート 50v/μS)なものと思いますが、それでも使用可能周波数は 1〜1.5MHz程度です。
10倍の利得をとった場合 1MHz にても 1dB 近くレスポンスが低下します。
バイポーラ入力タイプではいくつもの高域特性の良好なオペアンプがあるのに何故 FET 入力タイプでは
ないのでしょう。確かに FET 入力でも入力容量が 10pF もあれば 10MHz では入力インピーダンスは
1.59KΩに低下します。FET はバイポーラよりも入力容量が大きく、FET の利点である高入力インピーダンスを
高域で生かすことは難しい。だから FET 入力で高域特性の良好なオペアンプを作っても仕方がない
ということなのでしょうか。ですが DC から数メガヘルツまでの周波数帯域で使いたい場合、
75Ω の入力インピーダンスでは使えません。高域で入力インピーダンスが低下してもやはり
FET 入力でなければなりません。
NS の LH0032 というハイブリッドタイプがあるにはあるのですが、容易には入手できそうにありません。
入手できたとしても数千円という価格になるのではないでしょうか。
本アンプは容易に入手可能な石で製作しました。ただ初段の FET は現在入手可能かどうか分かりません。
回路図
回路図にはわざと定数は入れておりません。CAD は文字を外してコピーできるので便利です。
hFE について
hFE ランクについての認識は低く、メーカー製品を修理に出した場合、メーカーに
よっては同じ hFE ランクの TR に交換されない場合があります(製品のスペックや
使用する部位によっては hFE が異なってもほとんど影響のない場合もある) 。これはメーカー
内部で情報交換が徹底されていないことにもよりますが、サービス部門と開発部門との技術レベルの格差に
よるところが大きい。簡単に言ってしまえばサービス部門では hFE ランクの異なる
TR を使用した場合の影響が分からないのです。特別な環境で使用する顧客がいてクレームが来たら ?
その時は再修理すれば良い・・・。
メーカーでさえこのような体たらくですからアマチュアでは何をかいわんやです。数え切れないほどの
アマチュアサイトがありますが、hFE ランクによる影響を理解して適切に選択しているのは
1つもないといって良いでしょう。何も分からない(レベルの低い)者同士仲良く・・・この構図は何かに似てますね。
石について少し解説
初段 FET には 2SK58 を使用。"カレントミラー回路の考察" で使用したものより少し IDSS
が大きいですが gm は変わりません。DC ドリフトの点からは ♂♀♂♀ の方が良いのですがオペアンプに使用するのは勿体ない。
デュアルタイプといっても単に2素子入っているというだけで、全くといって良いほど熱結合は考慮されて
いないようです。このためモールドパッケージでは片側から風が当たったり、片側が熱の発生源に近かったりすると
DC ドリフトが大きくなります。
なお定電流用 TR に直列に抵抗を挿入していますが、これは定電流用 TR の損失を抑えるためです。
定電流用 TR のベースに接続されているダイオードはケース内温度 (周囲温度) の変化に対応するもので、定電流用 TR の
自己発熱まで補償するものではありません。モノリシックとは異なります。
二段目差動増幅には 2SA1161 を使用。エミッタ接地ですので fT が高く
Cob の小さい石が必要です。銅板で熱結合しています。
デュアルタイプでない石を使用する場合熱結合は必須です。
ベース接地増幅段の電流増幅度は 1-1/hFE ですので hFE が 100 でも
250 でもほとんど変わりません。カレントミラー回路にパラに入ってきますので Cob は
小さい方が良いのは言うまでもありません。2SA836D を使用。熱結合の必要はないと当方は考えます。
カレントミラーには現在 2SC2458 を選別し hFE の揃ったものを使用しています。
銅板で熱結合。カレントミラー回路の熱結合は極めて重要です。
ダイオード側の発熱がほとんどないのに対し、負荷側はマイナス電源電圧とほぼ同じ
電圧がコレクタ・エミッタ間にかかるためコレクタ損失が大きくなって発熱します。発熱が大きくなればコレクタ抵抗が小さくなり、
コレクタ・エミッタ間電圧が小さくなって出力中点電位はマイナス側に動きます。この時十分な熱結合がなされていれば負荷側の石の
発熱がダイオード側に伝わってダイオードの電圧降下が小さくなるため、負荷側の石の Vbe が小さくなってコレクタ抵抗が
大きくなり、コレクタ・エミッタ間電圧が小さくなるのを抑制するように働きます。カレントミラー回路の
石を熱結合することにより、素子の自己発熱による DC ドリフトはかなりの部分抑えることが出来ます。
コンプリ段。カレントミラーにパラに入ってきますので Cob の小さい石を
使いたいのですが、コンプリ TR では選択が限られます。現在は 2SA1015-2SC1815 を使用。hFE
ランクを合わせるのは当然ですが、更に選別して hFE がほぼ同じペアー(その上更に
選別する方法があるのですが書きません。やってみたい人は自分で研究するべし)を使用します。
これにより直流的には b-b 間バイアス電圧の変動に対する出力中点電位の変動がほとんどなくなります。
これはオペアンプメーカーでオペアンプを設計している人しか言えない言葉でしょうね。しかしそのような人は言いません。
交流的には? 書く必要なし。
コンプリ段バイアス回路
このバイアス回路の温度係数はジャスト -4mV/℃で、抵抗値を変えても温度係数は変わりません。まさにコンプリ 1段の
ためのバイアス回路と言って良いでしょう。
熱結合について
昔、雑誌の製作記事に ”エポキシで固めてしまえ” というようないい加減な熱結合の仕方が載った記憶がありますが、
エポキシで覆うのは絶対にいけません。エポキシは熱伝導率が悪く、素子の発熱がほとんど放熱されないため
回路の動作が安定するまで恐ろしく時間がかかります。当方では 0.3mm の銅板を 6mm 程度の幅に切り、熱結合
する TR を巻いています。更に同じ銅板で上部に蓋をしています。
プリント基板
温度安定度を問題にする場合、部品によってはプリント基板のランドの大きさまで考慮しなければなりません。
メーカーでもこれを掴んでいるかどうかは分かりません(発熱する部品の場合は当然考慮しているでしょうが)。
ノウハウです。また部品の基板へ取り付け方にも配慮しなければなりません。メーカーでこれを掴んでいるか
どうかは分かりませんが、結果としてメーカー製品ではほとんどの部品が適切に取り付けられています。
まあ中には発熱する抵抗を基板にぴったり取り付けている例も見られますが・・・(小さい W 数の抵抗の場合に
見られます)。これを見ると理解してやっているのか、部品はこのように取り付けるべきという一般常識で
やっているのか疑問も残りますが。
オフセット調整
FET の両ドレイン間に XXKΩ 程度の温度係数の小さい半固定抵抗を入れるか、FET の負荷抵抗のどちらかに
温度係数の小さい半固定抵抗を入れます。
DC 特性
AC 特性とともに DC 特性がオペアンプでは重要です。下手くそなアマチュアの作ったオモチャアンプ
のように、出力直流電位の変動が数十ミリボルトもあったらオペアンプとしては使い物になりません。
”AC 特性が良いから DC 特性は悪くて当然”ではありません。本アンプでは流している電流が多い
ため安定するまで数分かかりますが、安定してからは Av=10 において出力直流電位の変動は 1mV
以下となっています(風の当たらないケース内であれば、安定してからはほぼ 0.1mV 以下)。
周囲温度を変えた場合は、温度 16.5℃で出力直流電位 0mV、+5℃(21.5℃) 0mV、+10℃(26.5℃) -0.3mV、
+15℃(31.5℃) 0mV の温度特性が得られています。
しかしながら如何なるテクニックを駆使して熱結合しても、DC 特性はモノリシックオペアンプには適いません。
小さなチップ上に作られたモノリシックオペアンプでは、全ての素子がリアルタイム(適当な言葉が見つかりません)
で熱結合されて同じ温度にあるのに対し、ディスクリートの素子ではパッケージ(と空気)を介して
熱結合しなければならないからです。このため熱の伝達ロスがありますし、時間的遅れも生じます。
AC 特性
本アンプ Av=10 での周波数偏差です。下図の特性の AC-DC CONVERTER の整流部を用いて測定しています
ので負荷抵抗は 2.4KΩ となります。
ほとんど同じ特性です。従って本アンプ自体では 10MHz までほぼフラットということになります。
実際に使用するにあたっては、ノイズの点から少し周波数特性を落とすことになるでしょう。
総括
これだけの特性が得られてもまだ課題はあります。
電源を入れてから安定するまで(出力直流電位が 0.0mV になるまで)の時間の短縮は是非とも成し遂げたい課題です。
しかしこれは実に難しい。
1mV 以下の出力中点電位の安定度を上げるためのカットアンドトライは、裸の状態では無理です。
風の当たらないケースが必要となります。
増幅段の石を 2SA1161 に換える前は周波数特性の調整にエネルギーのほとんどを使い、2SA1161 に換えてからは
直流電位の安定に長期間時間とエネルギーを費やしました。直流電位の安定は実に難しい。オペアンプのほとんどが
高いオープンループゲインを持っているのも納得します。