カレントミラー回路を差動増幅回路の負荷とした場合です。この場合動作はそう単純ではありません。
I 1 と I 2 は位相が逆で、I 1 が減少するとき I 2 は増加、I 1 が増加するとき I 2 は減少します。
I 1 が減少する場合を考えてみましょう。 I 1 が減少すると Q1 のベース・エミッタ間電圧が
小さくなるため、Q2 の Vbe が小さくなり Q2 のコレクタ抵抗が大きくなります。Q2 のコレクタ抵抗が
大きくなるとき I 2 は増加します。また I 1 が増加してQ2 のコレクタ抵抗が小さくなる時、
I 2 は減少します。このため抵抗と比べ大きな増幅度が得られることになります。とくに Q1・Q2 に
適切な値のエミッタ抵抗を入れた時には、増幅素子として FET を使用した図の回路でも増幅度は数百倍にも
達します。Q1 のベース・エミッタ間接合(ダイオード)のインピーダンスは小さく、I 1 が変化しても
Q2 の Vbe の変化は僅かですが、Q1・Q2 にエミッタ抵抗を入れることにより Q2 の Vbe に大きな変化を
与えることができます。この Vbe の変化による Ib の変化が hFE 倍される
ため、コレクタ抵抗の変化も極めて大きなものとなり大きな増幅度が得られることとなります。
このように大きな増幅度を得られることが、大きな増幅度を要求されるオペアンプで多用される主な理由です。
抵抗の場合、電源電圧±15V 、I 1 ・ I 2 を3mA とすれば、選択することのできる抵抗値は最大でも
5KΩであり、 FET の gm を 2mS とすれば増幅度は 10倍(実際に選択できる抵抗値はもっと小さくなる
ため増幅度も小さくなる))にしかなりません。
敢てバランスを崩した場合は?
図で差動増幅回路のバランスをとった場合、Q2 のコレクタ・エミッタ間電圧は Q1 の
ベース・エミッタ間電圧より少し大きい程度の値です。カレントミラー回路を DCアンプのプリドライバ段の
負荷として用いる場合、敢てバランスを崩してこの電圧を片側の電源電圧とほぼ同じにしなければなりません
(これをオペアンプではオフセット調整という)。具体的には I 1 を少し減らして Q2 のコレクタ抵抗を
大きくし、Q2 による電圧降下を大きくします。
この場合 Q2 のインピーダンスはどうなるでしょうか? 直流的には電源電圧を I 2 で割った値に
なることは当然ですが、交流的には? コレクタ抵抗が大きくなっているためインピーダンスも、敢てバランスを
崩す前の数十倍という値になるでしょうか。
出力直流電位の安定性
差動増幅回路で増幅素子に複合型でない素子を使用した場合、個々の素子の特性のバラツキにより
動作点は大きく変動します。複合型の素子を用いた場合にも両方の特性が完全に同じわけではなく、ある程度の
変動はやむを得ません。また基板上の配置の問題による熱的環境の違いや、接続する定数の違いに
よっても動作点は大きく変動します。これは設計上の巧拙が大きく影響しますが・・・。
何かの理由により(カレントミラー回路を負荷とした差動増幅段以前の回路による影響も含む) I 1 が増加する
場合を考えましょう。差動増幅回路の定電流回路が良く出来たものであれば、
I 1 + I 2 は一定で熱的な影響はほとんど受けません。従って差動増幅回路で I 1 が増加するということは
I 2 が減少するということになります。ところが I 1 が増加すると Q2 のコレクタ抵抗が減少し、増幅素子の
コレクタ電圧(図では FET のドレイン電圧)が上がって I 2 が増加する方向に働きます。I 1 + I 2 は一定
ですから I 1 が減少することになり動作点の変動は小さくなることになります。これは
トランジスタの VCE-IC 特性と FET の VDS-ID 特性の違いから、差動回路の素子がトランジスタの方がより有効に働くことは
いうまでもありません。DC アンプの NFB を外しカレントミラー回路を抵抗に置き換えることにより
確認できます。
位相回転の減少
次段の入力容量や浮遊容量により Q2 の出力電圧(コレクタ・エミッタ間)は I 2 に対して遅れることに
なります。これはカレントミラー回路に限らず全ての増幅回路で共通の問題です。ところがカレントミラー回路
では Q2 は I 1 によりドライブされ、 I 2 と同相でコレクタ抵抗が大きくなったり小さくなったりして
います。このため次段の入力容量や浮遊容量を含めた Q2 のインピーダンスによる位相回転よりも、実際の
位相回転は少なくなります。
実際に測定してみましょう
FET は手持ちの中から SONY の VHF 用 Dual FET 2SK58 を使用。IDSS は
VDS 5V に於いて 5.55mA と 5.59mA、ID 2.7mA において
gm は実測 2.12mS 強。VHF 用だけあって周波数特性は良好で、1KΩの負荷抵抗でも 2SK168 による FET
バッファ(入力容量実測 6pF)を用いて測定した場合、10MHz にてもレスポンスの低下はほとんどありません。
カレントミラーには手持ちの中から日立の 2SA836D を使用。fT 200MHz、
Cob 2pF、IC 2.7mA において hFE
は実測約 250 です。hFE が 100 程度の石を使いたいのですが
手持ちの 2SA タイプで fT の高いものはほとんど hFE が
大きく仕方ありません。2SA1015Y でも使いましょうか。三菱の Dual タイプ 2SA979(現在まだ販売している店も
ある 2SA1928 の旧形状のもの、
この石も hFE が大きい)もありますが、エミッタコモンのためエミッタ抵抗を
付けるテストはできません。
定電流回路は何でも良いのですが、ツェナーは 5V 、金属皮膜抵抗を使用しています。
半固定抵抗を調整して I 1=I 2 (≒2.7mA)としたとき、Q1 のベース・エミッタ間電圧は 0.67V、Q2 の
コレクタ・エミッタ間電圧は 0.67〜0.71V 程度ゆっくりと変動します。従って Q2 の等価直流抵抗値は約
255Ω となります。この時の増幅度は実測約 2.7倍ですからコレクタ・エミッタ間インピーダンスは約 1.27KΩ。
カレントミラー回路を等価直流抵抗値と同じ抵抗に置き換えたとすれば、増幅度は 2.12 x 0.255≒0.54
ですから抵抗と比べ 5倍の増幅度が得られていることになります。増幅度は必要だが、次段との電圧配分上
、また最大出力振幅が低下するためあまり大きな抵抗値は選択できないというケースは良くあります。
次に差動増幅回路のバランスを崩してみましょう。
半固定抵抗を調整して Q2 のコレクタ・エミッタ間電圧を 1.5V にします。時間とともにゆっくりと変動します
ので、変動のおおよその中点を 1.5V にすればよいでしょう。このとき I 2 は約 2.93mA に増加します。従って
Q2 の等価直流抵抗は約 512Ωとなります。このときの増幅度は実測約 50倍です。このドレイン電流領域
ではドレイン電流が増えても gm はほとんど変わりませんので、Q2 のインピーダンスは約 23.6KΩ となり
等価直流抵抗の実に 46倍という大きな値を示します。このように等価直流抵抗が低くインピーダンスが大きい
ということは、オペアンプのように使用される電源電圧が分からない場合極めて有利です。プリドライバ段の
負荷に抵抗を用いる場合、抵抗値は電源電圧と流す電流により決まってきます。このため電源電圧を変えると
プリドライバ段の電流が大きく変わることとなり、AC 特性・DC 特性に大きな影響を及ぼします。電源電圧を
下げれば周波数特性が悪くなり、また電源電圧により動作点が大きく変わるため電源電圧変動除去比も悪化
します。
しかしながら自作機器のように使用する電源電圧が決まっていて、抵抗でも必要十分な増幅度と直流安定度が
得られるならば敢てカレントミラー回路を使用しない選択もあり得ます。インピーダンス≒抵抗値であるため
それ程大きな抵抗値は選択できず周波数特性は悪化しません。
エミッタ抵抗を入れると
Q1・Q2 のエミッタに 100Ω を挿入します。半固定抵抗を調整して +電源と Q2 のコレクタ間電圧を
1.5V にします。負帰還がかかるため、Q2 のコレクタ電圧の変動はエミッタ抵抗を入れる前と比べかなり
小さくなります。このとき I 2 は 2.76mA でエミッタ抵抗を入れる前と比べ増加は少なく、等価直流抵抗は
543Ω となりエミッタ抵抗を入れる前とあまり変わりません。増幅度は実測約 200倍ですので、インピーダンスは
実に 94KΩ にもなり、等価直流抵抗の約 174倍です。gm 2.12mS の FET でも一段で 46dB の利得が得られるのです。
差動増幅素子にトランジスタを使用し、その hFE によっては 80dB 以上の利得が得られる
ことになります。
差動増幅回路のバランスを大きく崩してみましょう。半固定抵抗を調整して +電源と Q2 のコレクタ間電圧を
5V にします。このとき I 2 は 2.78mA で 1.5V 時と比べほとんど増えていません。等価直流抵抗は約 1.8KΩ
となります。増幅度は実測約 238倍です。従ってインピーダンスは約 112KΩとなります。
このようにカレントミラー回路は大きなインピーダンスを得ることができます。しかしながらインピーダンスが
大きいということは小容量が付加された場合にも大きな高域レスポンスの低下を招きます。
+ α
カレントミラーと似たような回路で、初段の負荷として図のような回路が使われることがあります。
この回路の動作を検証してみましょう (メーカーで開発した方は別として、間違いなく
日本初と思います、何度も書きますが HP というのはこのような内容でなければなりません)。
Q1・Q2 のバイアス設定用抵抗 R2 には I 1・I 2 の一部が流れます。そしてこの電流は位相が逆です。
このため信号分に関しては電圧降下が生じず、Q1・Q2 のベースはアースされているのと等価になります。
従って Q1・Q2 のコレクタ抵抗が R1 に比べて十分に大きければ、差動増幅回路の負荷インピーダンスは
R1 と等しくなります。R1 には数十KΩという大きな値の抵抗値を選択することが可能なため、コレクタ・
+電源間の電圧降下を大きくせずに大きな増幅度を得ることが出来ます。2SK389BL のような Hi gm の
FET を使用しないである程度の増幅度を得たい場合に便利な回路です(低歪率メインアンプで使用)。
Q1・Q2 のエミッタ抵抗を大きくすると直流安定度が向上します。しかしながらあまり大きくすると
負帰還により Q1・Q2 のインピーダンスが低下するため 200〜470Ω程度でしょう。
説明するまでもありませんが、Q1・Q2 のコレクタ電位は R2 で設定します。